2021年11月22日
詩|球(たま)
ぱっかりとふたつに割れて
あなたの前に現れたけれど
わたし、ほんの半月前までは
ひとつのたまだったんですよ
ぷかぷかと南シナ海からやってまいりました
インド人のようなムードの7歳程の男の子が
わたしを海に向かって投げた
そこまでがわたしのはっきりとした記憶です
そのあとはずっと海
ずっと海を
果てしないじかんの海を
ただ浮いて浮いて浮いているだけの人生
そのまま浮いて終わるかと思った
沈むとばかり思ってました 海のそこへ
どれくらい時間が経ったのだろうか
からだの表面はひしゃげ、水を吸いすぎて
どこからが自分でどこからが自分じゃないか
もうわからなくなってしまった頃
その頃のわたしはすっかり眠ってばかりいました
もう自分は死んだのかもしれない
死んだか生きているのかもわからないって感じになることってあるんです
ただ浮いているだけの
ただ浮いているだけの
わたし
無思考です
無感動で無感覚です
そうやって浮いているだけだったわたしが
辿り着いたのは
実際に鎌倉の冬の海岸でした
若々しく、人間たちが集う場所ではない、こっそりした場所に
わたしは辿り着いたのだ
そうして、割れました ふたつに
まさかふたつに割れるとは思ってないかった、わたしという存在が
強い風が吹いた日があったのです
風がわたしを岩に当て、割れました
見事にふたつに割れました
そうして割れたまま半月の間
岩のかげや、砂のまにまにいたわ
とても不思議な気持ちだった
ずっとひとつだったから
そうしたら
悠くん、あなたが現れたのですよ
拾って石を入れ
わたしを縫いつけひとつのボウルのわたしにしましたね
わたしであってもう過去のわたしじゃない
あたらしいわたしになったわたしは
なんだかぬくとい
淡いピンク色の場所に置かれて
今は座敷の上にいます
今度はどこへいくのやら
わたしのだんなさまになる人は
どこかにいるのか
すっかり乾いた肌で
今日もなんとか生きています
河合悠展 糧となり のために 2021|11|18