2021年11月21日

詩|存在

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なつかしい
あの石だたみで見た
白濁した
土埃り

それをまとった粒を
じっと見ていた午後
みるみるわたしは
ちいさくなっていき
気づけば
素焼きの糧
そのつぶつぶを構成する
土の粒子となっていた

静かである
沈黙をしたいなどという
願望すら消え
静かである
わたしは誰からも
判別不明な土である

土の粒子となったわたしからも
世界は見える
むしろとてもよく見える
ここから見る世界は沈黙でできている
沈黙に身をうずめて
さらに世界を観察し続ける
すると
すべて同じものから生まれたことが
はっきりとわかる

わたしは土です

その意識も遠のく頃
どこまでも深く吐いた息は
とうとう世界の果てにまで
行き着いてしまった
これ以上吐くことができない終着点で

息は
とうとう
やんだ

わたしは

です

その意識さえ遠のいて
完全な暗闇に
すっかり飲み込まれ
とうとうわたしは
暗闇そのもの

なっていた

沈黙以上の沈黙が
海となって
たゆたう
海となって
たゆたう
海となって
たゆたう

このときこの空間を
こころの奥底から待っていた
わたし自身から溢れる思いに心底安堵する

ふと
暗闇にかかっていた
茜色の暖簾をくぐる
すると
だいじなひとは立っていた
たったひとり
同時に
全身が骨まで白く発光していたのである

驚いたな

驚いた瞬間
わたしはひさしぶりに息を吸った
からだじゅうの細胞という細胞に
あたらしい空気が行き渡り
意識はふきもどり
土に戻っていた

おや?
しかし わたしは
もう あのつぶつぶでは ないようだよ?

しっとりとした
湿度の高い
漆黒の暗闇のなか
カテドラルの荘厳な響きのなかで
ひとつの火をたよりに
縄を 編む 男 ひとり

おや?
わたしは
いったい どこにいるのだろう?

わたしは
ひんやりとした赤い土となり
土間から
男を見つめていた
男の手を
男の指を
その先を
その先の闇を

わたしはまた
編まれるつぶつぶに
なっていくのか
土として
糧となり
音となり

河合悠展 糧となりに捧ぐ 
2021|11|17