2016年8月29日

ピアノはピアノできいてください

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最後にクラシックのコンサートに行ったのは、何年も前のある秋のことだった。その頃のわたしは、極秘にある人の介護をしていた。重病人の介護プレイ。精神的にも肉体的にも追い詰められていくわたしを見かねて、友人のえのちゃんがチケットをとってくれてわたしを誘い出してくれたのだ。小澤征爾さん指揮の何か。オーケストラもプログラムも覚えていない。でもえのちゃんのやさしさ、青年気質溢れる音のシャワー、サントリーホールのほんわりとしたシックな雰囲気に、ただただ脱力した。昨日は父が誘い出してくれた。岐阜にN響がやって来たのだ。1曲めは、スメタナの「売られた花嫁」(序曲)。 泣けた。曲に乗せて、亡くなった母がすぐさま登場したから。「いつも見守っているよ」というメッセージとがわたしを実際に包んだ。おまけに極めて具体的な忠告まであった。2曲めは、児玉桃さんを迎えてのグリーグピアノ協奏曲。最後にドボルザークのアメリカへ行く前の最後の交響曲(第8番)。こころの中で死者たちと交流し(音楽はしかるべき周波数に導くものなのか?)、情熱的な音の珠々に、ふだんクラシックになじみのない者でも存分に楽しめた。このコンサートの間に、わたしは決意した。わたしはピアノを習うことに決めた。30年ぶりに。つい今しがた歩いてすぐの友人かつ仕事仲間であるピアノの先生に、習いますといってきた。緊張した。だって、いよいよわたしは子どもに戻っていくのだと思うから。時空を超えるのだから。